東京地方裁判所 昭和46年(ワ)395号 判決
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【判旨】
2重大な過失の抗弁について
次に、<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、この認定をくつがえすに足りる証拠はない。すなわち、
(一) 原告と訴外会社間に締結された本件基本契約の内容及び同契約に基づく本件ガソリン売買の取引状況、入金、返品状態は前記二認定のとおりであり、なお、右両者は、本件基本契約において、契約期間を一か年、ただし、双方の合意により継続することができる旨をも約していたもので、本件ガソリン売買の取引は、比較的長期の間、反覆継続してなされることが予定されていた信用取引で、そのため、契約締結の当初から取引額も相当多額になることが予見されていたものであつて、原告が本件ガソリン売買の取引を中止した昭和四三年一一月一九日当時における取引残高(給油券の納入済額面取引高で返品処理も右時点までの分のみを計算するものとする。)は、約九〇〇万円余りの多額に達していた。
(二) 原告は、従来、訴外会社もしくは被告と取引をしたことはなく、本件が初めての取引であり、しかも、本件基本契約締結当時、被告が株式会社のような営利目的の団体ではなく、消費生活協同生活組合法に基づき設立された消費生活協同組合であることを知つていたと推認されるから、消費生活協同組合法に意を配れば、被告には役員として五人以上の理事が置かれ、理事が各自被告を代表することになつている(同法二七条、四二条)ことが容易に理解しえた筈である。しかるに本件基本契約の締結にあたり、原告の担当者である天野銈二営業一一課長は、浅見から東京都公立学校生活協同組合業務部長浅見好文の記載のある名刺を交付され、これを受取つたが、契約書(甲第一号証)には東京都千代田区神田一ツ橋教育会館五階都生協事業部浅見好文と記名されているだけで、極めて重要な取引書類であるのにかかわらず、被告の名前は正式の名称ではなく単なる略称で表示されており、異例であり、また浅見好文の名前には被告もしくは被告事業部(ただし、当時、被告には事業部という部門がなかつたことは前記三1(三)のとおりである。)を、直接に代表又は統轄するものであることを示す肩書の記載もなく、一見、あたかも契約当事者が都生協事業部なる団体か浅見好文個人であるかの如き記載になつており、前記記名上に押捺されている角印も都生協事業部之印と表示されているに過ぎないものであつた。
(三) 本件基本契約の締結当時、訴外会社の事務所が教育会館五階にあつた被告の事務所と同一場所にあり、これと同居していたことは前記三1(三)認定のとおりであり、右事務所の入口には、被告の東京都公立学校生活協同組合という看板と訴外会社の都生協事業部という看板が二個掲げられていたものであつて、原告の担当員である天野銈二は、本件基本契約の締結にあたり、右事務所を訪れたことがあり、右事実を知つていた。右訴外会社の看板は、木製幅約一〇センチメートル、長さ約一メートル大の被告の看板とほぼ同様の大きさのものであり、その大きさ、表示の内容などからみて被告の単なる一事業部門を表示する看板としては不適切なものであつた。
(四) このように、本件基本契約及び売買の相手方の営業主が被告であることについて疑念を生ぜしめるような事情があつたうえ、昭和四三年九月ないし一〇月ころ、原告の担当員である天野銈二は、訴外会社の従業員宇部ツヨ子、被告の債権者竹内二三子らより、都生協事業部は被告とは異なる団体である旨の警告を受けたにも拘らず、原告は直接被告に対し都生協事業部と被告の同一性について確認することなく、本件取引を継続したものであつて、原告が被告に対し確認をなしえなかつたとする特段の事由はうかがわれない。<証拠判断略>
以上認定の事実によれば、原告が訴外会社と本件基本契約を締結し、売買取引を開始した当初はともかくとして、前記警告を受けた後、すなわちおそくとも別表(一)記載の昭和四三年一一月一八日以降の売買契約については、その相手方の営業主を被告と誤認したことについて重大な過失があつたものというべきである。
(宇野栄一郎 榎本克巳 加藤幸雄)